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翻訳の現場から


2020.07.28

風間先生の翻訳コラム

コラム第67回:血の川

『カセットテープ・ダイアリーズ』
全国にて絶賛公開中
配給:ポニーキャニオン
©BIF Bruce Limited 2019


 前回「カセットテープ・ダイアリーズ」に絡めてイギリスの移民の話を書いた。イギリスは移民に冷たいと思われた方もいるかもしれない。だが元来、イギリスという国は移民に寛容な国なのだ。古くはローマ帝国やバイキングなどに征服、侵略されてきた歴史があるし、現イギリス王室はドイツ系の血が入っている(ちなみに移民ではないが、現王室――正確には元?――のヘンリー王子の妃、メーガン・マークルの母親は黒人だ)。昔から外国人との接触は多く、ヨーロッパ大陸との関係で亡命者を多く受け入れてきた。さらに帝国主義時代に全世界に植民地を持っていたことから、特に第二次大戦後は旧植民地から移民が大勢やってくる。この辺の事情は前回のコラムで書いた。
人種のるつぼというとニューヨークを想起するが、実はロンドンも知る人ぞ知る多国籍な街なのだ。これに加えて、イギリスというのは極めて個人主義が発達した国。隣にどんな人が住んでいても干渉しないというお国柄である。だから大陸のヨーロッパ諸国に比べるとイギリスは外国人に開かれており、比較的移民が暮らしやすいと言われている。
だが移民が増えれば、元からいた住民との間に軋轢が生じる。「カセットテープ~」では国民戦線による移民排斥デモが描かれるが、国民戦線とはイギリスの極右政党。60年代に設立され、1970年代から1980年代にかけて支持を獲得、白人至上主義、移民排斥などを訴えた。これ以外にも1950年代にはテディボーイと呼ばれる白人貧困層の若者がノッティングヒルでカリブ系黒人を襲う暴動事件が起きている。白人労働者階級側が、増え続ける移民に職を奪われると苛立ったのが動機と言われている。また1968年には国会議員のイーノック・パウエルが増え続ける移民に対して警告を発する演説を行い、旧帝国から来た移民は帰国させるべきだと語った。これが映画の中で出てきた“血の川演説”である。
この血の川演説は後に様々な波紋を投げかけている。ビートルズ時代のポール・マッカートニーは、リハーサルで“ゲット・バック”を披露。歌詞はコーラスの“Get back”以外ほとんどできていなかったため、ジャムセッションで即興の歌詞でいろいろ歌った。その中に“No Pakistanis/パキスタン人は要らない”として知られるバージョンがある。差別を嫌うポールは血の川演説に触発され、
パロディとして“アメリカにプエルトリコ人は要らない”“パキスタン人は職を奪うな”と歌った。しかしメンバーから文字どおりの意味に誤解されると指摘され歌詞を撤回、紆余曲折の末に現在の歌詞に落ち着いたという。
 もうひとつ有名なのはエリック・クラプトンの人種差別発言だろう。以下「ロック・クロニカル 現代史のなかのロックンロール」から一部表記を変えて抜粋する。「76年9月、バーミンガムで開かれたエリック・クラプトンのコンサートで、時間が凍りついてしまったかのような奇妙な静寂の時が流れたという。クラプトンがMCで“イーノックは正しいんだ。ウォッグスを送り返して、英国を白人だけのものにするべきだ”と発言したのだ。“ウォッグス”というのはイギリスでは黒人を侮辱する言葉だった」
 物事というのは多面的なものだ。冒頭でイギリスは移民に寛容だと書いたが、例に引いたのは西欧諸国の白人の話。同じ白人でも東欧諸国の人間は差別され、それがブレグジットの引き金となったのはご存じのとおりだ。また、血の川演説のイーノック自身は、自分は差別主義者ではないと言っている。つまり発言の趣旨は人種差別ではなく、無制限に移民を受け入れる移民問題への言及だというのだ。
 残念ながら差別のない国はないし、差別と移民という問題はこのコラムで結論が出せるような簡単な問題ではない。映画を見て興味を持った方は、ぜひご自分で考えるなり、調べていただきたい。この稿を終わるに当たって、ジョージ・ハリスンの言葉を記そう――「僕たちのことを嫌っても構わない。でも僕たちを否定しないでほしい」

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