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翻訳の現場から


2021.02.12

風間先生の翻訳コラム

コラム第74回:ラムネとレモネード、どちらになさいます?

ラムネとレモネード、どちらになさいます?

 ある作品を翻訳していると、McGregorという登場人物が出てきた。とりわけ変わった名前ではない。「マクレガー」として翻訳を提出すると、「マグレガー」と濁らせるべきではないかとチェックが来た。ごもっともである。ランダムハウスによれば発音記号はm¹kgrég¹r 、「マグレガー」が正しいのだが…
 コラム第7回で少し触れたがMcまたはMacが付くのはアイルランドまたはスコットランド系の名字だ。Mcというのは○○の息子という意味で、McGregorはGregory/グレゴリーの息子という意味になる。やはり「マグレガー」と書くべきですよね。だが冒頭で書いたように、この名前は比較的なじみがある名字で、「マクレガー」と濁らない表記が一般的なのだ。例えばGoogleで両者を検索すると,ヒット数は濁らない方が濁る方の4倍近くある。ウィキで「マクレガー」を引くと実在の人物名が並んでいるが、ざっと見ると濁らない派の方が多い。字幕業界御用達のallcinemaでMcGregorを検索すると、該当者は11名で、「マクレガー」6名に対してマグレガー5名。拮抗しているが、濁らない派の中にユアン・マクレガーいるのです!あの「トレインスポッティング」や「スター・ウォーズ」で若きオビ・ワンを演じた名優だ。一方の濁る派は、言っては何だが無名俳優ばかり。人口に膾炙した表記というなら、やはり「マクレガー」を選びたい。
 それと何より“マグレガー”というのは言いにくい。日本語で言う場合、どの音も均等の強さで発音するから、正しい“マグレガー”より“マクレガー”の方が言いやすいのだ。ネイティブの発音の場合、ゆっくりだとMc-Gregorと気持ち切る感じで発音する。ちょうど「息子」の意味の部分ですね。あえてカタカナで書くならマッ-グレガーとなり、“マ”は軽く早く、最後は詰まった感じで言って、“グ”にアクセント置く感じですね――この辺は文章にすると難しいので、実際のネイティブの発音をYouTubeで見つけて聞いていただきたい。これなら濁っても言えるのだが、日本語の“マグレガー”とは明らかに言い方が違う。
 発音といえば、同じMcの付くMcDonaldだ。ハンバーガー・チェーンでもおなじみのこの名前だが、ネイティブの言い方は日本語の“マクドナルド”とは程遠い。これも無理やりカタカナで書くなら“マッダーナー”という感じ。我々は英語より先にローマ字を習うから、無意識にスペルを参考にして発音を想像してしまう。加えてアクセントという問題があるから、実際の発音がスペルと大きく違う(と思えてしまう)例は多いのだろう。
 それに対して明治人は違った。始めて耳にする英語を聞いたまま素直に日本語に置き換えた。有名なところではローマ字のヘボン式の「ヘボン」。これはローマ字を考案した人の名前Hepburnのことだ。オードリー・ヘプバーン、キャサリン・ヘプバーンでおなじみのあのHepburnである。それから飲み物の「ラムネ」もlemonadeをそう表記したものだ。これは現在だと「レモネード」とも言う。スペルを見たら“レモネード”が正解で、絶対に“ラムネ”とは思わないはず。だがネイティブの発音をお聞きあれ。大抵の人は“ラムネ”に軍配をあげるはずだ。
 明治人ではないが、田中小実昌が何かのエッセイで“コーノー”と書いていたのを読んだ覚えがある。Colonel/大佐のことだ。彼は戦後に進駐軍で働いていたので、耳から英語を覚えた部分があったのではないだろうか。この「大佐」のもうひとつの日本語表記が「カーネル」。例のチキンで有名なカーネル・サンダースでご存じですね。実際の発音は“コ”と“カ”の中間音だろうか。最後の“nel”の部分はLの発音が“ネル”より“ノー”に近いかも。
 ということで英単語を完全に日本語に置き換えるのは不可能だ。ヘボンもラムネも要は空耳ってことですからね。といってヘプバーンが正しいかといえば、そうも言い切れない。難しいところだ。となると既存の表記については一番ポピュラーなものを選ぶというのが無難ということになるのだろう。

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