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翻訳の現場から


2016.10.27

風間先生の翻訳コラム

コラム第22回:Nobody’s perfect

Nobody's perfect

このコラムでは、基本的に僕が翻訳した作品の中に出てきた面白い言い回しや興味深い事柄を取り上げている。作品名も出せるといいのだが、権利関係などがあって一部の物しか名前を出せないのが残念だ。今回の話は内容が微妙なのでいよいよ作品名を出しにくい。ただ、なかなか考えさせられることなのであえて書いてみる。

ある事情で、既にDVD化されている古い作品を訳し直す機会があった。物語の最後の方で、主人公がギャングのボスに金を盗んだと疑われ、服を脱ぐよう言われる。渋々服を脱ぎ出すと高額紙幣が床に。ボスはやはり主人公が金を盗んだのだと思い込み、部下にナイフを出させ「切れ」と言う。男性器のことだ。問題はその前のセリフ。ボスが部下に言う--Your father was immoral. Cut 'im. 「お前の親父はふしだらだったろ。切れ」と訳してみたが、なぜ父親がふしだらだと切る役目にならなければいけないのかさっぱり分からない。

訳に煮詰まると他人のせいにするのは翻訳者の悪い癖。もしやスクリプトに間違いがあるのでは?そう思ってDVDを借りてきた。大抵のDVDには英文字幕が付いているので、これで確かめようというわけ――あっ、日本語訳は見てませんよ。誓って本当ですって!

 しかし勇んで見た英文字幕もやはりimmoralになっている。僕の解釈が間違っているのか。しかし他に解釈のしようがない。大体、父親が不道徳と言うが、そういう自分たちもギャングなわけで、人のことを言えた義理ではないはずだ。一体どういう意味?

思いあまって、試しにyour father was immoralをそのままフレーズ検索してみた。するとimdbのgoofsのコーナーがヒットした。goofsとはミス、チョンボのこと。例えば右手で銃を持っていたはずの男が次の場面では左手に持っているといった類。制作陣にはうれしくないが、映画ファンはこういうミスを見つけるのが大好きだ。

さて、その記述によれば、ここはimmoralではなくa mohelの間違いだとのこと。mohelとはユダヤ教の割礼術者のこと。これなら辻褄が合う。「お前の親父は割礼術者なんだから、お前が奴の"息子"を切り落とせ」と言っているわけだ。改めてセリフを聞き直してみると、確かにimmoralとは聞こえない感じ。しかし、これも正解があったから言えるのであって、日本人の僕が聞き取るのは難しい。

実は翻訳作業用のスクリプトというのはすべてヒアリング起こしなのだ。だから精度に差はあるが、時として間違いはある。ただ、製品となったDVDの英文字幕によもや間違いがあるとは思わなかった。

僕は決して「いい加減な商品を出しやがって」と糾弾したいのではない。ネイティブでも間違う、間違って聞こえることがあるという事実だ。考えてみれば邦画でも古い作品だとセリフが聞き取れないことがある。また、セリフがその時代に流行っていた事柄に言及していたりすると、耳で聞こえていても何のことか分からなかったりする。このセリフをヒアリングした人も、もしかしたらユダヤ教の割礼術者のことを知らなかったのかもしれない。やはり過つは人の常。ということで「お熱いのがお好き」の最後のセリフで締めよう。Nobody's perfect ―― 「完璧な人間はいない」!

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