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翻訳の現場から


2017.04.11

風間先生の翻訳コラム

コラム第28回:世界最大の建造物

世界最大の建造物

(C)Universal Pictures.
4月14日(金)全国ロードショー


「グレートウォール」――言わずと知れた万里の長城を英語ではこう言う。翻訳依頼があった時、マット・デイモン主演作品と聞いて、西洋人が東洋で見聞を広めるマルコ・ポーロのような話だと思ったが、実は一大ファンタジーでした。万里の長城は匈奴のような騎馬民族の侵入を防ぐために建造されたというのが定説だが、この作品は別のものの侵入を防ぐためだったという架空の物語なのだ。
 その別のものとは饕餮(とうてつ)という。難しい漢字だが、何度も出てくるので、僕のパソコンでは「とうてつ」と入れると一発変換するようになった。その正体は本編を見ていただくとして、本来の饕餮とは中国の神話上の怪物。一説では体は牛か羊で、曲がった角、虎の牙、人の爪、人の顔を持つという。目が脇の下に付いているという説もある。様々な書物で紹介されるたびに記述が変わったり、別の怪物と混同されたようで、容貌や説明がいろいろあるのだ。
 饕餮の「饕」とは財を貪る、「餮」とは食を貪るという意味で、饕餮は貪欲の象徴と言われている。面白いのは、殷や周代に作られた青銅器に獣面のような文様が刻まれているが、これが饕餮文と呼ばれているのだ。名前自体は後世に付けられたため、文様が饕餮を描いているのかどうかは明らかではないらしい。この饕餮文も本作で登場する。ある場面でこれ見よがしに出てくるので、ぜひお見逃しないように。
 さて、この作品は意外なところで苦労をした。物語の舞台は中国――台詞などから想像するに西暦1000年代、現実の歴史で言えば北宋の時代あたりだろう。当然、中国人の会話は中国語だ。基本は英語作品なので、中国語部分には英文字幕が出る。意味は分かるのだが、問題は固有名詞だ。他の国が舞台ならそのままカタカナで表記すればいいが、中国は我々と同じ漢字の国。漢字表記にしたいところだが、それを英語で言われてしまうのだ。
 例えば長城に駐屯する軍の名前。英語ではNameless Orderと言う。そのまま「無名軍」「無名部隊」としてみたが何だか怪しい。中国語のできる知人に見てもらおうかなどと考えていた矢先、はたと気づいた。幸いにもこの作品、アメリカより先に中国で公開予定だったのだ。翻訳時はちょうど公開の1ヵ月ほど前。ならば中国で宣伝が盛んなはず。そこで「長城」「電影」などのワードで検索をかけてみたところ、いろいろ出て来ましたよ。複数のページを見比べて、ようやく目指す文句を確認できた。「無影禁軍」である。namelessはともかく「禁軍」という言葉は英語からは想像できない。
 もうひとつ、本編中で詩が歌われるのだが、なかなか感動的な場面なので、ぜひ訳したいと思った。ここは幸い中国語の字幕が付いていた。検索してみると創作ではなく、唐の詩人、王昌齢(おうしょうれい)の「出塞」という詩だ。イギリスにはシェイクスピアやシェリーやキーツがいるように、中国も四千年の歴史があるだけに、古典には事欠かない。以前にジャッキー・チェンの「酔拳」をDVD翻訳したが、劇中で酔った主人公2人が口にしたのも李白、杜甫、王維といった詩仙たちの詩だった。恐るべし中国!

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