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翻訳の現場から


2019.05.16

風間先生の翻訳コラム

コラム第53回:お前の母ちゃんデベソ

お前の母ちゃんデベソ

 外国語を覚えようとする時に、真っ先に覚えるのは卑語の類ではないだろうか。僕は軽薄なので、こういう言葉はすぐ覚えてしまう。フランス映画を何本か見たら「メルド」というのを覚えた。「クソ」という字幕で必ず言っていたので印象に残るのだ。今調べてみるとmerde/糞便という意味らしい。同様にイギリス映画ではボロックス/bullocksと言う。こちらは睾丸という意味。どちらの言葉も、絶対にネイティブの前で言ってはいけませんと注釈がついているのがほとんどだ。
 そういえば昔は、漫画に出てくるアメリカ人はすぐ「ガッデーム」と言っていた。恐らくGoddamn itのことではないか。実際の発音は「ガッデム」とか「ガッダミ」に近い。素人考えではdamnにgodが付いたのだと思うが、goddamnもdamnも本来は呪う、ののしるという意味だ。実際には何か失敗したり不愉快な事があった時に吐き捨てるように言う。「クソ」「チキショー」などと訳すのが普通だ。
 このdamnを使ったセリフで非常に有名なものがある。「風と共に去りぬ」のレット・バトラーのセリフ、Frankly, my dear, I don’t give a damnだ。女主人公のスカーレットに「あなたが行ってしまったら私はどうすればいいの?」と言われ、レットが吐き捨てるように言う――「正直なところ、勝手にするがいいさ」。このdamnというのが当時としては強い罵倒語だということで、映画に使われたことが大いに話題になった。何と言っても1939年、戦前の作品である。やはり卑語は人々の記憶に残るのです!
 当時としてはと書いたが、今ではGoddman itもdamnも上品(?)な部類だろう。アメリカ英語では何と言ってもfuckである。皆さんもご存じだろうから意味の解説はやめておく。現在では罵倒語として普通に使われるが、元がとても品のない意味なので、公の場では絶対に使えない言葉だということは覚えておいた方がいい。
 さて、某映画を翻訳していたら、相手をののしるのにFuck youが出てきたのだが、今回のはいささか長い。Fuck you and the horse you rode in on.普通に訳して「くたばれ。お前の乗ってきた馬も」と言っているのだろうことは見当がつく。ただ、馬というのが唐突だ。そこで少し調べてみた。
 やはり要はくたばれと言いたいのだが、単に相手を侮辱するのではなく、相手の周囲の状況すべてを侮辱する言い方ということらしい。そこに馬が出てくるのが、フロンティア期に馬が生活の一部だったアメリカらしい点ということのようだ。恐らく酒場に馬で乗り付けて、そこでケンカになった際に言ったのが始まりといったところか。1950年代までは確実に使っていた言い回しらしく、今はあまり使われないのかもしれない。
 実は映画のセリフは続きがあって、and the whole cavalry behind yaと付け加える。馬だけでなく「お前の後ろにいる騎兵隊もくたばれ」と言うわけだ。バリエーションとしていろいろ付け加えることができるらしい。実際、“Fuck you and the horse you rode in on”を調べていたら、ブルックリンで聞いたとしてFuck you and the white horse you rode in on and all your relatives in Brooklyn/お前もお前の乗ってきた白馬もブルックリンにいる親戚全員もくたばれ、というのも出てきた。
 早い話が「お前の母ちゃんデベソ」と、相手だけでなく相手の母親まで侮辱する悪口と同じということだ。こういうところは洋の東西を問わず考え方が同じだというのが興味深いところである。それにしても読み返すと今回は糞便だの睾丸だの、尾籠な話で大変失礼しました。次回は爽やかにいきたいものです。

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